”あの時は(無知な大学生たち)①”

エッセイ
変化球でいいかも~

大学1年生の7月、僕も含めて同級生はほぼ全員運転免許をとった。仲の良い連中も全員とった。

当然だが、免許はあっても車がなければどうしようもない。おおげさではなく友人で普段1000円以上を持っているものはおらず、車などというものは高根の花で、免許を見てにんまりするものの、自転車という現実にがっかりもしていた。

お金がない、ないとは行っても居酒屋さんや、ガソリンスタンド、引越し業などみな色々とアルバイトをしていたので、必要な学費や教科書の分を差し引いて、奇跡的に全員(大体5から7人)が2万円近くを持つこともあった。

2万円。気分は大富豪である。

当時の僕たちの夢は、車もそうだが、モスバーガーを何も気にせずにこれでもかと食べる、というものだったので生活の状態はご想像がつくだろうか。

僕は、代用品としてスーパーで期限ぎりぎりで、安売りになった食パンを買い、これも同様の温めて食べる照り焼きハンバーグを買って、自家製てりやきバーガーを作って食べることも多かった。

トースターも持っていなかったので、網の上でパンを焼き、がつがつ食べて気分を満足させていた。

友人の一人(現在も岡山で頑張って仕事をしているので名前は伏せる)ミスターUは、ビールを飲んで全力疾走して酔いすぎて無駄にしてしまうことが多かったが、ビールを買うお金もあまりない。

皆から愛されてバカボンと呼ばれていた友人は、缶コーヒーが好きだが、全部飲むともったいないので少しずつ残しており、結局どれが新しいのかわからなくなり、ロシアンルーレットさながらに、残っているもののうちから1本を飲んで、おなかを壊す猛者だった。冷蔵庫もなかったから、余計にだろう。

沖縄から来ていた友人、レゲエは鳥取の寒さをなめており、4月にタオルケットしかなく、暖房器具をまともにもっていないため、寒さの限界がきて皆にSOSを出し、全員が少しずつ新聞を持って行ってその暖かさに感心し、しばらくは部屋の中であるにも関わらず、新聞を大きなごみ袋に入れて暖をとるため愛用していた。

他にもいるが、皆似たり寄ったりだった。

あるとき、バカボン以外の友人で、少量でおなかがいっぱいになる方法はないかと思案し、激辛カレーを買った。鳥取出身の友人が米はある程度持っており、そこに激辛カレー、水道水という組み合わせならば、一人30円ぐらいの出費で腹いっぱいになるだろうという結論になり、カレーパーティーを開催した時だった。このときにたまたまみんなバイト料が入っており、いつもに増して節約をせねばと考えた末のメニューだったが、結果カレーが辛すぎてみな3口ほどで撃沈。かえって無駄遣いになった。

重い空気が流れ、カレーくさい部屋の中、会話も途切れがちになっていた。

そこへ、満面の笑みを浮かべたバカボンが帰ってきた(というか誰の部屋も鍵などかけていなかったので適当にどこかにたむろ。その日はバカボンの部屋で勝手にカレーを作っていた)。

”なんら、みんな暗い顔して”彼は静岡出身で、いつもこのような話し方をしていた。

”カレーがだめになったから、しばらくは食事が作れない。ガスもなくなったし。”ハードロックマニアのGジャンが言う。

”調理器具がなさすぎるぞ”レゲエが言う。

考えてほしい。我々は勝手にバカボンの部屋で食事を作り、彼の大切なコンロのガス缶を空にしていたのだ。ひどい話だが、バカボンは気にしていなかった。

”そんなことはどうでもいいら。5万円で車が買えるら!”うれしそうだった。

我々も色めきたった。念願の車が5万円で手に入るとは。しかもバイト料があり、十分割り勘で購入できる。

バカボンの話によると、彼がバイトしているリサイクル店の横に鉄板の工場があり、そこのおやじさんが5万円で売ると言ってくれたようなのだ。

当然、何も世間の事情が分かっていない僕たちは、車庫証明や、自動車税、名義変更のことなど一切頭にない上に、くどいようだがバイト料があるので、

”おいちゃん、5万円!”

”あいよ!”

といった感じで、国産、某メーカーの普通車が手に入ると信じ込んでいた。僕の頭には、やはり行ったことのないモナコグランプリの会場が浮かんでいた。

そそくさと片付けもせず、皆カレーを放置したまま、くだんのお店に行く。

頭の中では一人5,6千円で車が買える。必要な時に交代で乗ればいい。シェアハウスならぬ、シェアカーだ。いやあ、いいこともあるもんだと明るい気持ちで歩いて行った。

工場に着くと隅に銀色の割ときれいな車があった。

”あれら、あれ!”うれしそうなバカボン。

僕たちは少し、不安になった。

”本当に5万円で売ってくれるのか?”

今なら、”そこかあい!!”と突っ込みたくなるが、手続き云々ではなく、あんなきれいな車が5万円でもらえるとは、そこに不安を感じていた。

”おう、きたかあ”

真っ黒に日焼けした、がたいのよいおやじさんがきた。バカボンが言う。

”おやじ、5万円持ってきたら、くれ、くれ!”

どきどきしながら様子を見る我々。みOもんたばりに時間をかけるでもなく、ファイナルアンサーは出た。

”いいよ、もってきな。ガソリンはサービスで満タンだよ。”

おおおう。全員がどよめいた。バカボンが神に思えたのは後にも先にもこの1回だけだった。

5万円で念願の車が買えたのだ。6人いたので定員オーバーだが、そこは気にせず、ノープロブレムとし、さっそくドライブに出かけた。

おやじの黒い思惑など気付かず、鳥取砂丘まで行くことで全員の気分は最高潮だった。

この後の僕たちと無関係な電気屋さんの悲劇も分からずに。

以下次号(週刊です)