”あの時は(無知な大学生たち③)”

エッセイ
変化球でいいかも~

Gジャンが指した先には大きなドーナッツがあった。

夕暮れで視界も悪いが、全員右に傾いた姿勢でしっかりと確認した。

さまざまな要素が良い方向に重なったのは、被害拡大を防ぐせめてもの幸運だったのだろう。

国道に差し掛かる交差点で、対向車もなく、エンジンが止まり静かであったこと、道路自体に車が少なかったことなどが、かつ我々を冷静にした。

ドーナッツをもう一度確認する。

”タイヤらああ!”

バカボンの声で急に我に返る。

人の常ではあるが、あるべきものがそこにないともどかしいし、あってはいけないものが異な所にあると大きな衝撃を受ける。そう、5万円の車の右前方タイヤが、ブレーキの瞬間にはずれ、国道を転がり倒れていた。

どうりで、”ンガッ”という音がするわけだ。

そこからのチームワークは早かった。

F1のピットばりに、全員車から降り、足早にタイヤを拾いに二人走り、残りの4人で道路沿いにあった大きな電気屋さんの駐車場に車を運んだ。

30年近く前の平和な世の中。監視カメラもおそらくはなかったのだろう。明らかに怪しい運び方で、車を隅にどうにか止め、タイヤを持って戻ってきた二人が合流し、パンクの修理のふりをして、車を持ち上げとりあえず

タイヤをつけた。

火事場の馬鹿力はあるのだなあと思うが、よく運べたもんだ。

で、そこからどうするかであるが、一見すると普通に停車した車に見える。しかし今後動かないことは全員わかっている。JAFなどというオシャレな物に入っている友人はいない。

震えるバカボンが見えた。全員、鉄工所のおやじに騙されたことを悟っていた。が、どうしようもない。

ミスターUの一言で行動は決まった。

”逃げるしかないやん”

そう、その場所を離れるしかない。ただ急に動くと店員さんに怪しまれるので、とりあえず6人でお店に入り、欲しくもない単三電池を4本購入。

そのまま徒歩で帰路に着いた。みんなが黙っている。お日様も沈んでいる。サザエさんのま逆の状態で。

ただ、後日面倒なことにならないのかという不安はあった。

そこは不思議なことに何もなかったのである。今現在に至るまで。これからは理由の推測になるが・・。

以下次号(次回8月11日更新です)