Gジャンが指した先には大きなドーナッツがあった。
夕暮れで視界も悪いが、全員右に傾いた姿勢でしっかりと確認した。
さまざまな要素が良い方向に重なったのは、被害拡大を防ぐせめてもの幸運だったのだろう。
国道に差し掛かる交差点で、対向車もなく、エンジンが止まり静かであったこと、道路自体に車が少なかったことなどが、かつ我々を冷静にした。
ドーナッツをもう一度確認する。
”タイヤらああ!”
バカボンの声で急に我に返る。
人の常ではあるが、あるべきものがそこにないともどかしいし、あってはいけないものが異な所にあると大きな衝撃を受ける。そう、5万円の車の右前方タイヤが、ブレーキの瞬間にはずれ、国道を転がり倒れていた。
どうりで、”ンガッ”という音がするわけだ。
そこからのチームワークは早かった。
F1のピットばりに、全員車から降り、足早にタイヤを拾いに二人走り、残りの4人で道路沿いにあった大きな電気屋さんの駐車場に車を運んだ。
30年近く前の平和な世の中。監視カメラもおそらくはなかったのだろう。明らかに怪しい運び方で、車を隅にどうにか止め、タイヤを持って戻ってきた二人が合流し、パンクの修理のふりをして、車を持ち上げとりあえず
タイヤをつけた。
火事場の馬鹿力はあるのだなあと思うが、よく運べたもんだ。
で、そこからどうするかであるが、一見すると普通に停車した車に見える。しかし今後動かないことは全員わかっている。JAFなどというオシャレな物に入っている友人はいない。
震えるバカボンが見えた。全員、鉄工所のおやじに騙されたことを悟っていた。が、どうしようもない。
ミスターUの一言で行動は決まった。
”逃げるしかないやん”
そう、その場所を離れるしかない。ただ急に動くと店員さんに怪しまれるので、とりあえず6人でお店に入り、欲しくもない単三電池を4本購入。
そのまま徒歩で帰路に着いた。みんなが黙っている。お日様も沈んでいる。サザエさんのま逆の状態で。
ただ、後日面倒なことにならないのかという不安はあった。
そこは不思議なことに何もなかったのである。今現在に至るまで。これからは理由の推測になるが・・。
以下次号(次回8月11日更新です)