”あの時は(軽トラ、珍道中④)”

エッセイ

氷点下の鳥取の夜。

車内も寒さは増してくる。腰から寒くなる、そんな印象だろうか。10代の代謝をもってしても十分こたえる。少なくとも体はわかっていたはずだ。

問題は”脳”。大馬鹿二人は、先ほどの棒の光で車内がうっすらとオレンジになり、暖かくなったと信じ込んでいるので、ラジオから流れるサザンを大声で歌いながらとにかく異常に回転のよい軽トラのエンジンを回して走っていた。

ヒーターなど、実際は効いていないので車内は徐々に曇る。

”なんか、曇ってよく見えん。道見えんよ。で、なんで山道なん?合っとるん?”

”チャリは無理やと思うたから、朝は辞めたんやけど、この山抜けた方が近いんや。窓少し開けたら曇りとれるんちゃうん?”

そうかなあとも思ったが、寒さ、オイルのにおいで若干朦朧、さらに車を運転する喜びで冷静な判断ができなかったのだろう。窓を開けた。

当然だが一気に寒さが強くなる。尋常ではない。いきなりミスター、

”あかん、あかん!開けたら寒いわ!閉めてぇや。江口、何考えてんねん!”

誰しもが理不尽だと思うはずだが、運転に集中するため、黙って窓を閉めた。

当然車内は曇る。また開ける。曇る。しかもどこを走っているのかわからない。ミスターは意に介していない様子。

だんだん腹が立ってきた。

”なあ、ええかげん走っとるが、どこなんよ。チャリよりおせえで。道も見えんし。”

返答なし。

その沈黙がさらに気分をけば立たせる。

”おぇ、合っとるんじゃろうな。どこよ、ここ!”

驚愕の返答が戻ってきた。

”ほんっま、うるさいねん。どこやろなあと考えてんねや!!”

ええええぇ?

”おめぇ近道じゃあて、言うたろうがぁ!”

”江口がライトあげへんから、おれも道見えへんし。案内できんやんか。”

”じゃったら、のんきに歌わんと、見えんてはよう、言えぇ。帰れんで。”

”ちょっと黙ってんか?道、思い出してきたんや。江口、うるさいで。”

しょうがない少し黙ることにした。車内はものすごく寒い。トイレにも行きたいし、早く帰りたいし、おなかも空いたし、いらいらが募る。

しかもいつまでもミスターが何も言わないので、考えているのだろうと、下り坂になった山道を走っていた。

なんとなく視界が明るくなってきたので、おそらく町に近くなったのかなと慎重に走る。燃料が異常な早さで減っているのも知らず。

いい加減、ミスターが黙っているので、

”なあ、そろそろ思い出したんか?”

やはり返答がない。ちらっとミスターを見た。・・・・・・・・・。

寝ているっ!

”おぇ、何を寝とんなあ!起きて道を考えぇやあ!”

”寒いんや。なんか眠いから、適当に走って。どっかに出るやろ。”

寝息。

”こらぁ!寝るな!わからんのじゃって。ミスター、寝るな、起きろやあ”

たかが、バイトの帰り道。映画の雪山遭難のようなやり取りが続く。

ぶつくさ言うミスターを起こし、ふてくされた二人が何とか訳も分からず山を降りた。

目の前に見なれた光景があった。鳥取砂丘。

二人そろって、”なんで?”と声が出た。若干語尾の音が違うので、下手なハーモニーのように。

”何が近道じゃ。思い切り遠回りじゃねえかぁ!”

”知らん、ライトあげん江口が悪いんやろ!”

幼稚な言い合いをしながら、国道9号線に向かう。どんどん減る燃料にも気付かず。5分後にトラブルが待ち受けているのに。

以下次号