”あの時は(軽トラ、珍道中⑤)”

エッセイ

結局どこをどのように走ってきたのか、ナビもない時代の事ゆえ全くわからないが、鳥取砂丘右折の看板で一気に安心した。

”あとは左折して国道9号を走れば戻ることができる・・・・。

ようやくほっとして笑顔が出始めた時に、ミスターが一言。

”なぁ、ちゃんと戻ってきてるやん。江口は心配しすぎなんやて。”

寒さ、トイレ、空腹、安堵色々な感情がごちゃごちゃになっていたのだろうが、おそらく鬼の形相でミスターを一瞥。

のび太君じゃなかろうかと思う早さで眠っているミスター。あきらめて黙々と湖山町に向かって走ることにした。

冬の鳥取は初体験ではあったが、とにかく寒い。ただ粉雪がかすみのように舞い、軽トラなのに今でいうプリウスに近い静寂で走ることができ、山陰の趣を楽しむことにした。

人の感覚は思い込みで変わるものなのだなと実感したことを今になって気づくわけだが、車内も暖かくなってきているように思っていた。実際は、燃料を一気に噴射するチョークをひいてオレンジ色の光が見えるだけで、エアコンなども効いていないのに。

まあ、いい。

晩御飯の事やあとどのくらいで帰ることができるかの予測もついたので、”寒いんやぁ”と寝言をいって震えているミスターを全く無視して順調に国道9号を走る。見慣れた電気屋さん(バカボンの車を乗り捨てた過去がある。そのくだりは一度記載しています。)を確認。周囲も明るくなり益々安心。

そこが盲点ではあるが、チョークのオレンジ色ランプ以外に別のオレンジ色ランプが点灯していることに気づいていなかった。

そして大きな交差点が近づく。

寝ているミスター。安堵の僕。

10分後に足を怪我をすることになるとも知らず、運転している。

(以下次号:くどいですが2014年に途絶えていたエピソードの続きです。今後ちょくちょく更新しますが、自らの懺悔や記憶の記録なので、読み飛ばしてくださいね。)