最新桃太郎の真実 桃の屋太郎 第八話 急襲

桃の屋太郎

1628年、春。

迅速、かつ団結が必要であった。

 

太郎、猿武、犬山、吉備団子の4名で屋外警備の470名を完全に制圧しなければならない。

できうる限り、静かに。

その後、屋敷内に幼馴染の吉備太郎に従う形で入るには、呼吸を整える時間を考えても

30分ほど。

 

風林火山の教えが必要な攻撃である。

武田信玄が極め、真田昌幸こと桃の屋源次郎、そして太郎へと受け継がれた戦法だ。

 

あらかじめ、キジが調査した屋敷外への抜け穴は襲撃前日に、吉備太郎が封鎖していた。

露払いの役割を行い、体力を使うために団子で栄養を付ける事は彼には必要。

 

一か所、忘れていた部分はキジが埋めたが、

 

”すいやせん、うっかりしてやした。”

 

素直に謝罪する吉備太郎。

憎めない男である。

 

うっかり吉備団子。 このフレーズはのちにも生きていく。

 

さて当日、日が暮れかかるのを待ち、目立たぬいで立ちで東西南北の侵入地点に待機。

キジは、宴の準備のために、先に屋敷に入った。

内部にいる20名の警備隊、そして温羅に酒を少量ずつ勧め、油断させる役割を担っている。

 

外部の4名は、宴席の部屋に明かりがともったことを合図に広大な邸内に侵入。

温羅の本拠地。

人数こそ多いものの、戦国の世から時間が経過し、且つ温羅一族自体は無頼の集団。

よもや攻め入るものなどおるまいとの油断があった。

攻撃に必要な事は、静寂、俊敏、途切れぬ動きだ。

 

この場合、剣術よりは体術が重要となる。

 

数多くある攻撃のうち、胸部に一撃を加え心臓振盪を起こさせる方法(金剛)。

 

頸動脈を一気に圧迫させる方法(実戦柔道での三角締め)。

 

全員一致で、この方法が最善と判断。

 

今夜の酒席は、今までになく盛り上がると聞いていた手勢たちも相当の油断している。

 

真の達人は、一人を静かにさせるのにおよそ2秒ほど。

 

戦国の世が終わり、敵味方入り乱れる乱世を生き抜いた真田の教育係に鍛え上げらえた太郎。

教育係を厳格な父に持つ猿武、犬山。そして、達人吉備。

 

気配を消して背後に近づき、相手が振り向いたならば金剛を、そのままならば三角締め。

これをひたすら続ける。舞のように滑らかに、途切れず。

 

息吹と呼ばれる複式呼吸で、自らを整えながら黙々と失神させていく。

 

刀はこのような場合ぶつかりの音がするので、奇襲には適さない。

 

それぞれが、能のような美しい動きで、そして正確無比に攻撃を加えていく。

仲間が次々と完全に動けなくなっていることを気づかせないように、作業を遂行する。

 

春とはいえ、ますますあたりは暗くなるが暗闇稽古が効いており、意に介さず続ける。

吉備太郎が、酒を酌み交わそうと温羅の屋敷を訪れる予定時刻の30分前。

全員、静かに邸内のあちこちに横たわっていた。

 

凄まじい攻撃力である。

 

1名が120名弱を攻撃し、失神させるのに20分で終わった。

”やりましたな!”

 

猿武、犬山、吉備の言葉に太郎も力強くうなづく。

 

 

キジの働きで、温羅屋敷(通称 鬼ヶ島)の警護もほぼ無力化されていた。

 

温羅の周囲は、女性間者が扮する女衆20名で固められ、油断しきった彼が逃げることなどない。

 

警備のものは酒が回り、眠っているものもいる。

 

急いで、吉備太郎は金で装飾した、伴天連の衣装に着替え、太郎たちも鳴り物を用意する。

 

 

ここからも勝負になるが、完全に失神した温羅の配下が覚醒するのに1時間。

それまでに、温羅の懐近くまで入り込み、成敗をせなばならぬ。

 

道化を演じるわけだが、緊張を解くわけにはいかず温羅に気配を感じ取られても愚策。

慎重かつ陽気に、吉備太郎を先頭に温羅本家の入り口に入っていった。

 

そして吉備太郎がこう言った。

 

以下次号。毎週水曜日連載です。

この作品はフィクションです。

 

コアラ人