最新桃太郎の真実 桃の屋太郎 第九話 宴

桃の屋太郎

 

”遅くなりやしたぁ!温羅殿、お久しゅうござる!今宵は飲みあかそうっぞ!”

楽しく、大きな声で吉備が温羅屋敷(通称鬼ヶ島)の本丸に自然に入り込む。

太郎達も配下に扮して琴、三味線、鳴り物を携え、吉備を先頭に太郎、猿武、犬山が続く。

邸内が戦闘で静まりかえっていくにつれ、温羅にどんどん酒を注ぎ吉備の来訪を待ち受けるキジ達。

温羅は異変に気付かず、吉備団子との酒席を待ちかねている様子。

 

”遅いじゃなぁい!先に始めさせていただいておるぞ!

友と腹蔵なくうまい酒を飲むのは、楽しみで、楽しみでなあ。

ささ、始めようぞ!”

 

無邪気に一行を招き入れた温羅に若干の憔悴があることに太郎は気づいた。

 

幕府の申しつけ通りに生きてはおるが心苦しくてのぉ。

部下を食べさせるため、色々とやってはおるが、・・。

ま、ままっ辛気臭いことは忘れて!

幼馴染の顔を見ると晴れやかになるわぁ。

ぐっと飲まれなされっ。今宵、楽しもうぞっ!”

 

陽気に酒を進める温羅。

邸内での出来事にも気づいておらず、吉備一行を疑う気配もない。

 

太郎は噂と違う温羅の様子を、心の中で冷静に観察している。

同時に吉備団子の話の真偽も熟考していた。

 

もう後戻りはできない。太郎を納得させるため腹をくくった吉備が申し出た。

”そなたの疲れは、よおぉうわかっとる。

ただ、ただ飲んで踊っての憂さ晴らしが一番よろしいなあ。”

もともと演芸にたけた吉備の申し出。

温羅は、心躍る気持ちでいた。

 

酒席ゆえ、珍しい演芸をお持ちした。聞いてくだされ!踊ってくだされ!

 

”吉備団子で”BPPB”!!”

 

英語が堪能な堺の商人ゆえの洒落心、そしてもともと芸達者な吉備。

それは太郎が奏でる琴の音色で始まった。

ちゃ、ちゃ、ちゃ、ちゃ、ちゃ、ちゃ、ちゃ、ちゃ、ちゃらららららぁん

ここで猿武の拍子木。

かぁあん!

そして犬山の三味線、同時に猿武が鳴り物吉備は踊りに徹する。

 

っべ、っべ、っべ、っべ、っべ、っべ、っべ、べべべぇん

  きん    きん    きん    きん  かぁあん

っべ、っべ、っべ、っべ、っべ、っべ、っべ、っべべん!

       きん    きん    きん    きん   かんっ!

温羅にしてみれば初めて聞く躍動感。

 

I  have a brush!¹ かんっ。

I have a pineapple²! かぁあん。

・・うんっ!

pineapple brush! しゃっ!

 

 

I  have a brush! かぁあん。

I have a peach! かぁあん。

・・うんっ!

peach brush! しゃっ!

 

pineapple brush! きん!

peach brush! きん!

 

べべんっべ、しゃっ、かんっ!

 

ブラッシューパイナッポー、ピィイチィーブラッシュ。

 

っべ、っべ、っべ、っべ、っべ、っべ、っべ、べべべぇん。

  きん    きん    きん    きん

 

っべ、っべ、っべ、っべ、っべ。

  きん      きん    きん

 

ブラッシューパイナッポー、ピィイチィーブラッシュ!

   

ちゃらららららぁん。

”さあ、ご一緒にぃ!”

 

っべ、っべ、っべ、っべ、っべ、っべ、っべ、べべべぇん。

  きん    きん    きん    きん

 

:いわゆるpenはまだ発明されていない。19世紀になってのもの。筆をbrushと呼んでいた。

:日本にパイナップルが導入されるのは1680年だが、マカオには1605年に存在し、堺の貿易商人の

吉備団子と温羅は知っていた。

 

”面っ白いのう!”

 

初めて聞く音楽。連打されるとくせになる。

当時存在していたが、形が決まっていなかった徳島の”阿波踊り”

これに影響を与え、今の単純かつ思わず体が動く踊りに完成させた、吉備渾身の”BPPB”。

 

酒の酔いもあるが、当然思わず立ち上がり、手と体が動き出す。

いつの間にか楽器類は女衆に変わり、女衆の輪の内側に吉備、太郎、猿武、犬山の輪。

そして中心に温羅。

この構図で踊り始めていた。

徐々に輪が狭まり太郎が温羅の真正面になっていた。

 

ゆっくり太郎が右手を挙げた。

 

同時に、突如音楽が止まる。

 

静寂の中温羅は太郎の表情が一変し、若武者の顔になっていることに気づく。

そして自らもどこにも逃げ場がないことに気づいた。

 

”吉備、これは何のまねじゃぁ!”

 

大声で叫んだが吉備は沈黙し、太郎が温羅の肩をぐいと押して、両者座り込み対峙する形になった。

ただ事ならぬ様子に温羅の体温は一気に上昇した。

 

以下次号。毎週水曜日連載です。

この物語はフィクションです。

 

コアラ人