最新桃太郎の真実 桃の屋太郎 第十話 対峙

桃の屋太郎
締め切りが・・。

風邪で揺れる建具の音、心の臓の鼓動すら感じられる静寂だった。

どれほどの時間かわからないが、押し黙り凝視してくる若武者 太郎。

温羅は、太郎の瞳孔に映し出される己の顔を見つめ、恐怖心を再確認した。

 

口の中は乾き、ろくに声も出せない状況。

目をそらすことが逆に怖く、太郎の胸元に小太刀があるかの確認すらできない。

周囲にいる、猿武、犬山の気配も彼を萎縮させていた。

そして、心が老け込むほどの恐れ。

”豪華な暮らしをされておられるな。”

瞬き一つせず、表情も変えずに太郎が言う。

 

女衆もおらず、大広間に太郎を含め5名しかいない。

しかし温羅にすれば狭い部屋で縛られているかのような息苦しさだった。

 

”ほぅ、噂と違い中々寡黙な御仁とお見受けいたした。

何も言わぬというのは、某に貴殿を切れということか?”

 

太郎が、さらに間合いを詰める。

温羅は、壁際におり逃げ場がない。

 

キジは急いで、屋敷の蔵に走っていた。

村の人々から預かった、品々がすべて残ってるのかを確認するために。

 

温羅が、口をあけ何やら言おうとしている。

”・・・・・・・ぬか。”

”聞こえぬっ!”

 

その様子を見ていた吉備団子が見かねて、

”太郎殿、もとは心優しき男。水が欲しいのでござろう。良いか?”

 

太郎が静かにうなづいた。

差し出された水を飲み、初めて声が出せるようになった温羅は、

”此度のこと、拙者にもわからぬ。そもそもそなたは誰じゃ?”

 

左の口角のみ少しあげ、笑顔ともとれる強面で太郎は酒をあおる。

右手にはいつの間にか小太刀があり、さらに間合いを詰める。

温羅は生きた心地がしない。

 

”お主は、己の悪行で民を苦しめておること、おわかりか?

その上でのこの贅沢三昧。

ある程度の事情は聞いておるが、某、己の目で見たものしか信用できぬ性分でな。

 

そなたの口から真実をお聞かせ願いたい。

その上で、切るか、切らぬかは判断する。

もう、逃げ道などどこにもない。”

 

状況が少しわかってきたとは言え、配下の誰一人この事態に駆けつけぬことも気になり、上の空の温羅。

 

 

”まずは、そなたが何者かをお教えいただきたい。この状況、盗賊に入られたも同然。

わしの家来をどうしたのじゃ?

何故、話さねばならぬのかわからぬ。話すこともない上、おのれの財で好きに過ごして、何が悪・”

立場が、全く割っておらぬわぁ!細かく話さねばならぬか?

何者かなど、とるに足らぬこと!民の怒りの象徴とでも考えればよいのじゃっ!”

 

腹から響く太郎の声、猿武、犬山が刀に手をかける音が聞こえ、温羅は押し黙った。

 

”わからぬか?民から大切な宝物を預かり、払うべき金も出さず、徒党を組んで黙らせ、私腹を肥やす。

泣きくれる民を置き去りにし、この贅沢三昧。温羅殿、もはや鬼のような所業。

何も話す気がないというのなら、こちらも問答無用一気に成敗してくれるわ。

 

家来衆はみな先に逝った。さぞかし、あの世で温羅殿を待っておることであろう。

もう、何も言わずとも結構。

われらで、髪の毛一つ残らぬように成敗じゃ。

よいなっ!”

 

心の臓がさらに強く打つ。

 

”ま、ま、待ってくだされ。拙者にも話す機会をくだされ。”

 

 

問答無用と申したはず。聞かぬ、止めぬ、退かぬ!

覚悟を決められよ。”

 

喉元に太郎の小太刀の鞘、猿武と犬山が刀を抜きかける音。

体温調節のためではない、粘液質の汗を大量にかきはじめ、全身が小刻みに震える。

 

口を出せず、じっと固唾をのんで見つめる吉備団子。

”頼む、お願いしますっ!何卒、話をさせてくださ・・”

 

くどいっ!、もはやあの世への道標を思い浮かべるが良い!!”

 

温羅は目を閉じ、うなだれた。

その瞬間、キジが広間に駆け込んできた。

 

”お待ちくださいませ、太郎様!”

 

以下次号  毎週水曜日連載です。

この物語はフィクションです。

コアラ人