僕が大学卒業後、社会と隔絶されたような浪人生だったので、母がチラシをもって来ました。
”運勢鑑定 2000円”
岡山でも時に来ますが、OO易断という、悩み事相談です。
おそらく、学生でも、社会人でもない当時の僕が抱える葛藤を打ち明けたらとの親心と思います。
ですが、僕は”自分の努力不足で起きた結果”ということを十分に理解していたので、洗脳の仕組みを見るつもりで行きました。
父の没後2年目です。
受付の方が、さわやかな香りで”お悩みを大師様が導いてくださるので、ここに必要なことを書いてくださいね”と素晴らしい笑顔を披露。
この時点で、”やべぇ”と確信。
今日の悩み事の部分は白紙、名前・住所は出鱈目を書いて渡すと、
笑顔が消えて、神々しい真顔で、
”一番大切な部分がありませんよ。素直になってください”
諭されました。ははぁん。
僕は、まさに雨に打たれた子犬を装い、あえて小声で、
”大切な事なので、当てていただき信じたいんです”と言いました。
まあ、いけると思われたのか、
”わかりました。中に入って、全てを話してくださいね。”と入室。
ものすごく賢覧豪華な部屋。三段ほど高い場所に大師様。
”今日は、どうなされましたか?”
ピンマイクかな、若干エコーの聞いた大師様の声。
静かに流れる何かわからない宗教的な音楽とベストマッチ。
”あのぅ、ものすごく悩んでいて、その・・。当ててくださいませんか。何も信じられなくて、すがるものも・・・。”
演技です。
くどいですが、父の没後2年目です。
数秒僕を眺め、大師様がおもむろに、
”あなたは、今、お父様がいませんね。”
来ました。占いでもよく使う手法ですが、不在でも、離別でも、どのような意味でもとれる表現です。
この時点で主導権をとった僕は、最大限に驚愕した顔で、
”何で、わかるのですか?父は、いません。”
してやったり風の表情の大師様が、
”お父様と会って、話していないことが、全ての悩みの原因ですよ”
断言されました。くどいです、父の没後2年目です。
”話したいのですが、できないんです。どうしても”
”そのかたくなな考えが、悩みから抜け出せない理由です。”
”しかし・・。”
”勇気をもちなさい。救われに来られたのでしょう?”
笑いをこらえるのに必死でしたが、まだまだ。
”わかりました。父と向き合うことはできるのですが、言葉のやり取りができず・・。一方的に僕が話したのではだめですか?”
やれやれという顔の大師様。
”そんなにお話をすることに聞く耳をもってくださらないお父様ですか?私にはそうはみえない(どう、みえたのか!)。柔らかく受け入れてくれるはずですよ。”
うなだれ演技の僕が、
”対話をしないと解決しませんか・・。”
大師様、仕上げに出ます。
”それならば、私がお父様との間に立って話し合いの場を持ちましょう。私には見えます(だから、なにが?)。立派な方ですよ。”
いい加減、飽きてきたので、
”わかりました。父は鬼籍に入っていますが、対話をさせて下さるのですね?”
”なぜ、亡くなっていることを最初に言わない!”
”当ててくださるんですよね。見えているとも言われていたし”
わなわな震える大師様。
”もういいです、帰ります。なにかすっきりしましたし。”
もう、恥も外聞もなくなったのでしょう。
”絶対に、あなたの悩みはなくならない!300万出しなさい。お札を念じて、失礼なふるまいもすべて私が、ご祈祷して浄化しないと、また同じですよ。”
これが、宗教の始まりかと思い、2000円で面白い体験をしたと沈黙で後にしました。
翌年、僕は医師になりました。
この話は、母にもして大笑い。お仏壇で父にも報告しました。
不謹慎、コアラ人誕生の瞬間です。
すいません、長文で。
コアラ人の独り言。