”あの時は(軽トラ、珍道中①)”

エッセイ

肉まん、ロッキューから2カ月ほど経過していただろうか。

一人兵糧攻めにあっていた。

鳥取の冬は寒い。ちょうど僕が入学した時の冬は久しぶりの大雪だったようで、積雪量も60cmほどだった。

岡山からきた僕としては、雪の多さにテンションが上がり、友人たちとダイブして遊ぶなど、当初は喜んでいたがその光景になれると炬燵から出られないぐうたらになっていた。

部屋には米しかない。期限ぎりぎりのパンもあったが、トースターもなく毎回網で焼いていたので寒くて面倒くさい。

米も同様で炊飯器がないので、毎回飯ごう炊飯よろしく炊くわけだがもっと面倒。そして米もパンも仮に作っても味付けがない。

だらだらと何もせず、空腹を抱えていた。勝手な一人兵糧攻めだ。

”どうするかねえ”

とごろごろしていると、ミスターUが訪ねてきた。

”江口、おもろいバイト学生会館で見つけてきたで!いけへん?”

彼は岡山の人間なのだが、生まれが大阪ということで関西弁を悔しいが自由に操っていた。

”ふりかけとバナナしかないねん。コーヒー豆あるけど、ほんま豆やからコーヒーが飲まれへん”

彼に言わせると僕と動いてうまくいった試しがないらしいが、僕からすればいつも思いつきで動く彼に翻弄されていた。無邪気で勢いのある男なので、まあいいかと思っていたが。

”何のバイト?”

”足場のバイトや、時給3000円やで!”

また3000円。

どうもいい記憶がないので、乗り気でいないそぶりを見せていた。

”どうしたんや、建築現場の足場をワイヤーでセットにするだけやで。これで3000円ならいいやん。”

”単純作業飽きるで。年末にこりたけえ”

肉まんの件を話したが、ミスターUは聞いていない、というか僕の部屋の漫画を見ていた。

”ちゃんと聞けやぁ、ぜってぇあきるけぇ”

”3日だけやし、コーヒーメーカーが欲しいねん。江口もあるんちゃうん?”

うーん・・。

痛いところを突かれた。僕は当然炊飯器とトースターが欲しかったから。網で焼くパンや鍋で炊くご飯もいいが、本当に面倒だったし。

”いつからあ?”

”明日、朝7時半に現場集合らしいから、申し込んでおいたんや!”

はい!出ました。

こいつ、事後報告しにきやがった。最初から申し込んでいたのだ。ここまで固められたらやめられない。仕方がないので、なんとなく乗り気ではないままバイトに行くことにした。

翌朝、6時半にミスター(今後Uを省略、面倒になりました)を迎えに行くと起きていない。6時半はミスターが指定したにも関わらず。

”はようせぇや、おめぇが先に行こういうたじゃろう”

”うるさいなあ、間に合えばええんや、待ってて。江口は時間にうるさいんや。”

自ら指定しておきながらと待機。その後いらいらしながらミスターと現場へ。雪は道路わきによけてあるが、路面は滑りやすく、自転車で移動。

早朝ゆえ危ないことこの上ない。気分を変えるため質問した。

”で、バイトの場所、どこなん?”

”どこやったけ?なんとなくならわかるんやけど、とりあえず行ってみよや。”

えええええ?ちゃんと頼むよと思い、文字通り曇天の下、重い空気で現場を探して何とか時間ぎりぎりに到着した。

以下次号