最新桃太郎の真実 桃の屋太郎 第四話 和解

桃の屋太郎

とにかく太郎にしてみれば、次々と友が”温羅一族”のために貧困に陥っていく状況が辛かった。

 

温羅一族は古物商も営んでいた。

ここを隠れ蓑として金品搾取を行い、民衆を苦しめていた。

 

当時は大阪夏の陣の爪痕がまだ残っている。

いくさのあとは、当然土地が荒れ果てるため、飢饉にみまわれることも多かった。

 

定められた年貢を納められない場合、大切にしていた太閤殿下のゆかりの宝物や書物を

温羅の古物商に持ち込み、高く買い上げる約定を取り付けるが一向に支払われない。

文句を言っても、強面の若衆が大勢がやってくる。

結果、泣き寝入りの民衆は次々と貧困に陥った。

 

それ故、体力がなく実戦経験のない太郎は、自分が情けなくて仕方がない。

友を助けたい、太郎の考える”悪党温羅”を倒したいのだ

だが源次郎には、仕官のために勉強をしろとしか言われない

 

戦場で哀しみを知った源次郎。

かたや戦場を知らず義憤にかられる太郎

 

自らの生き様から良かれと思った源次郎の方針、かえって太郎を苦しめていた。

 

太郎の祖父母への不信感はつのるばかり。

そして何もせずに家の中に籠るようになった。

 

季節は紅葉に近づき、足守の山の美しさを見ようと庭にでた太郎。

 

普段は見ることを禁じられていた蔵に気づいた。

 

今までは従順にしていたが、祖父母の禁など意に介さず、錠をはずし中にはいった。

 

驚愕した。

 

中にはおびただしい武具に、書物の山。そして六文銭

 

気が付くと夕方まで読み漁っていた。源次郎の真の姿も分かり、祖母の生き様も理解した。

初めて触れる武具は興味深いものばかりだった。

 

源次郎が自らの生きざまを封印し、幸村の代わりに太郎を育てようとした真意がわかった。

そして、ようやく自分の浅はかさを恥じたのだ。

 

その日の夜。

 

久しぶりに三人での夕餉。

爺様は、えらい武将だったのですね。婆様は、間者であった。”

 

箸をおき、太郎を往年の迫力で見据える源次郎。

 

 

”蔵に入ったのか?”

 

いつもとは違う祖父に圧倒されて、押し黙る太郎

 

”太郎よ、温羅一族の蛮行はわしも随分と前から気にしておったのじゃ。

お前の考えなど、とうの昔にわかっておったわぁ。

どうやら、そろそろお前の自由にさせねばならぬか・・。”

 

御年を感じさせぬ源次郎の迫力に太郎はただ聞いていた。

 

”わしは、お前が蔵で読んだ通りの戦馬鹿じゃ。

戦国の世でしか生きる術を知らぬ。

お前には、広い視点でものを考える教育をしたかった。

いくさを求め、その道を走り続け、翻弄されて何が残った?

深い哀しみのみ。そんな生き方ぁ、わしで終わらせたいのじゃ

 

その時太郎はとっさに土下座をした。そして、

 

 

”爺様、いや真田安房守昌幸様太郎にも押さえきれない想いがございまする。

傍若無人な”温羅一族”をこのまま野放しには出来ぬのです。

戦いの末に”哀しみ”ではなく、”喜び”をご覧に入れまする。

どうか、どうか、鍛錬をつませていただきたく存じます”

 

しまい込んでいた正直な気持ちを源次郎に伝えた。

もはや、隠すことはできない。

 

二人のやり取りをじっと見つめているフミ。

 

鍛錬の道は厳しい。

囲碁のように策だけで通用する世界ではないのじゃ。

何がおこるか、わかりゃせんのだぞ。

 

自ら望むお前に、いかに厳しくとも根をあげず最後までやり通す心構えはあるのか?”

 

ありまするっ!

 

太郎は即答した。

 

フミが、静かに言葉をはさんだ。

”大殿様いつかこのような日がくると思うとりました。

真田の指南役、源信、笹本高山、摩護は近隣で鋳造業を営むように呼び寄せております。”

 

フミをじろりと見つめ、

 

”手回しのよいことよ。

良かろう。わしが描くことのできなかった、いくさを見せてみよ。

 

よいか、太郎。年長者には歴史がある。

その失意を味合わせたくなかったがために、お前に学術のみを押し付けた。

無意味に若いもんをしめつけたりなど、したりはせんぞぉ。

 

しかし当時のわしとて結局は反発したであろうな。

 

もう一度聞くが、鍛錬の道はお前が考えるほど甘くはない

真田きっての指南役。鍛錬は特に厳しい。

それでもやり通すのだな?

 

太郎の目は生き生きと輝いていた。

 

”苦難、厳しさは承知の事と覚悟は決めておりまする!”

 

若き日の自分を思い出したのだろう。源次郎も、

あい、わかった。明日より鍛錬に入れ

温羅どもを見事退治して見せよ。

ただしわしが生きておるうちにな。”

 

”爺様、ありがとうございます。

真田ご指南役に鍛えていただけることは身に余る光栄。

若武者となって”温羅一族”を倒して見せまする!”

 

一体どのようないくさをするつもりか、自らの想像を超えた新しい戦いに源次郎も力がみなぎる。

 

思春期を経て、世の不合理に若い感性で立ち向かう、桃の屋太郎が誕生していく。

 

太郎も、源次郎の真の姿、その心のひだをくみ取るフミに敬意をはらった。

再び、桃の屋家としての結束がかたまったのであった。

 

ただし、想像を絶する鍛錬が待ち受けている。

 

以下次号 水曜日掲載です。 

この作品はフィクションです。

コアラ人