最新桃太郎の真実 桃の屋太郎 第十一話 桃太郎伝説誕生。第一部 完。

桃の屋太郎

キジが息を切らし、広間に駆け込んできた。

何十枚かに及ぶ書を吉備団子に渡し、彼も確認をする。

 

”太郎様、そのあたりでひとまず、おとめくださいませ。キジ殿が蔵を確認されたところ、

民からの古物預かり品は、全て残っておりました。

丁寧に保管されておりまする。

一品たりとも横流しはされておらぬようです。

ごらんくださいませ。”

 

猿武と犬山に目配せをし、温羅の拘束は続けたが、太郎は吉備団子より書を受け取った。

子細を確認し始めた。

 

温羅は、やはりというか当然生きた心地などせず、震えている。

 

太郎は寡黙に書に目を通し、強い目力で温羅を見た。

 

”民から搾取した、宝物はすべて残っておるな。

では貴殿のこの豪奢な生活はなんと説明する。”

静かな語り口に、温羅も安心したのか話し始めた。

温羅の事情、苦しみ。

太郎は当然知ってはいたが、本人からの言葉が欲しかったのだ。

 

”私は、もとは堺で果実や反物、銃器、その他様々なものを商いとして、

イギリスやスペインなどと交易をしてまいりました。

 

己でいうのも気が引けますが、商いも順調で大勢の仲間もいて平和でございした。

豊臣秀頼公にも献上させていただき、それは厚くしていただいたものです。

ですが大阪夏の陣で、徳川勢に堺の港が完全に焼き払われ、

私に賛同する家来衆500人弱と小豆島に一時移住した次第。

かの地で名産になる可能性が高い、醤油の醸造で一旗を上げもうした。

しかしながら豊臣に通じていた私は討伐の対象。再度居を移した次第(現在の井原市)。

その後吉備粉の商いで頑張っておりました。

 

ある時徳川秀忠公の命を受けた使者がまいりまして、

わが温羅一族の地域への影響力の高さをかわれたとの事で、この文にあるように、”

 

文を太郎に渡した。

 

幕府に仕官する武士の位、毎年金300両の援助の申し出がございました。

当然、見返りは太閤殿下の名を落としめる、鬼と呼ばれる集団になること。

古物商のような搾取行為も幕府は目をつむる。

 

そういう内容でした。

 

徳川方には、堺を追われたころから、積年の恨みもございます。

受けるつもりもございませんでした。

 

しかし、私をしたってついて来てくれた家来衆を十分養うには、金が要りまする。

狼藉の集団となり下がった次第です。

 

心の中で敵方と思っていた徳川にくみすることは決断するにも、・・つろうございました。

その憂さ晴らしも兼ねて、堺、井原で蓄財。

己の器量で、世を忘れる時間がほしゅうございましての宴。

朝には鬼の温羅一族に戻らねばならぬので。”

 

じっと聞き入る太郎。

 

”よく、分かった。

貴殿討伐のみを考えておったが、吉備よりある程度の事情は聴いていた。

此度、お主の口からも、事情を聞くことができ、搾取品もすべて残っておる。

 

本来の自分と違うことをせねばならぬ良心の呵責が、夜の宴というわけか。

して、今後はいかようにされるおつもりじゃ?”

 

”私とて、このままでは破たんする自分が理解できておりましたので、太郎殿でしたな?

若武者の皆様に決断をする、勇気と機会を与えて頂いたことまことに感謝しております。

士族の身分で、木下藩に仕えさせていただけるのならば、存分に働きまする。”

 

”民からの信頼回復は、どうするおつもりか?”

 

温羅もしばらく考えた。

 

”どうでしょう?

鬼の温羅は、桃の屋太郎様に成敗され改心し、民に尽くすこと。

また温羅一族の解散。

これで、無頼集団は消滅したことになりまする。

 

蔵の中の、預かり品はすべて太郎様が民にお返しいただくことが、最善と思われます。

そして、桃太郎の鬼退治、という教えを残されてはいかがか?”

 

”ここにきて邪心はないな?”

 

”武士として、二言はござらん。幼馴染の吉備の心遣いも身に染みております。

どうか、お助けいただけぬか?”

 

”良かろう。本日をもって古物商をやめて、藩政につけ。

木下藩内で精進し、わしの片腕として、正しく西国の情報を収集せよ。

温羅殿の、苦渋はようわかった。

ただし、徳川の目もある故、盛大な物語にさせていただくぞ。”

 

”いかような悪名も覚悟の上。

正義の太郎様に鬼が懲らしめられ、金品が民のもとにかえる。

めでたしめでたし。

という伝説を、桃太郎という読みものにし、広げて参ります。”

 

この手法は、のちに赤穂浪士などでも幕府が模倣する。

傾奇者を徐々に駆逐し、牙を抜くために。

庶民の不満を代弁する事件を、演劇もしくはおとぎ話に変え、政権維持に努めたのだ。

 

かくして、桃太郎伝説が岡山に誕生した。

 

その後、温羅は太郎の部下となり、生涯を藩政に尽くす。

太郎は、民のもとに大切にしていたであろう宝物を返すことができ、皆の喜びが戻った。

 

”爺様と約束した、いくさのあとに喜びが戻った。”

猿武、犬山、吉備団子、キジを連れて、源次郎のもとへ向かった。

 

さて太郎の旅は、今後も続いていく。

おとぎ話としては終わる。しかし始まりでもあった。

第一部  完

 

 

次週は、ここまでの物語にこめられた、意味を記載します。

”第二部  源次郎の秘策”は、筆者取材のため、8月から再開です。

 

この物語はフィクションです。

コアラ人