最新桃太郎の真実 桃の屋太郎 第三話 苦悩

桃の屋太郎

哀愁の漂う、源次郎の背中

”大殿様、どうなされました?”、フミが言う。

 

何も返答はなく、クルミを二つ握りながら、源次郎は太郎をじっと見つめていた。

 

わしぁ、戦場で暴れて策を巡らせ、戦い(現在でいう仕事)に没頭した。

全ては論語を体得した信玄公の所領を取り戻すことのため(家族を幸せにするために夢を追求、とご理解いただいてよい)。

結果どうなった?大切な子供をを失った。

 

深い哀しみを背負った源次郎は、太郎に同じ道を歩ませては良くないと考えている。

 

”この子は、知恵と知識を十分に兼ね備えて、幕府に仕官(今でいうお受験さえすればよい。

これより太平の世。武の道は、哀しみしか生まぬからな。”

 

フミは、源次郎の本心ではないことを見抜いていた。

空虚な生活の中に、新しい可能性を託したい気持ちも痛いほどわかっていた。

 

”では、そのように史記、論語、孫子、囲碁など幅広く知識が付くようにご用意いたしましょう。

行ってまいります。”

 

用意に出かけて行ったフミを振り返るでもなく、源次郎は太郎に話しかけていた。

まだ、言葉もわからぬ赤子に。

 

実を言えばなぁ、お前も立派な武士に育てあげたい

 

ただ世の中がそれを許さぬ。

 

三つ子の魂、百までというが、お前をやみくもには甘やかさんぞ。

善悪を叩き込む。

どうせ記憶の残らない赤子よぉ。

愛情は注ぐ、ただし厳しさは必要じゃ。

善・悪の本質を理解せねば、これからの世を楽しめん。

 

立派に、江戸への仕官を果たし、新しき世を楽しむが良い。

ひたすら、書に励め!。

 

かわりに生きていく術は十分に教え込む。それが育てるというものじゃ。

お前はわしの殿ではなく、家来じゃ。

 

太郎を見つめる源次郎。

 

力強い言葉と裏腹に、まなじりに涙をためて、つぶやいていた。

 

 

”もう、戦はない。わしのような武者は無用の長物じゃ。

だがな、太郎。生き抜くための駆け引きも教えてやる。わしの余生はお前にささげよう。”

 

寺子屋ができるのはまだまだ先である。養育者の考えで、子供の将来が変わる時代。¹

 

¹源次郎とフミは太郎を心を鬼にして厳しく育てた。

そして太郎が無意識ではあるが良いことをすると、とにかくほめた。

二人の献身的な教育が泣ければ、太郎の活躍はない。

しかし、3歳未満の太郎に具体的な記憶は決して残らない。

だからこそ、優しさを十分に秘め厳しく育て、考え方としての善悪を教え込んだ。

3歳までに犬や猫をかわいがるように甘やかしたとする。

 

 自分が一番と勘違いした子供自身が社会で大きな挫折を経験することになる。

 時には、取り返しのつかない事故もおこしかねない。

 

 その時、考えなく甘やかしていた養育者は、初めて失敗に気づくが、自身は被害がない。

 苦しむのは最愛の子供自身。源次郎は、戦国を生き抜く大切な子育てを熟知していた。

 これは今後国際化が進む、現代の日本にも通ずる。)

 

 

太郎に語りかけているようで、実は”武”と完全に決別することを決意した源次郎の苦悩であった。

そしてクルミを握りつぶしたのであった

 

それから7年、太郎8歳。

 

太郎の出自は不明だが、実の父母も優れた武士の家であったのだろう。

 

太郎の吸収力は抜群で、遊戯の感覚で始めた囲碁も、百戦錬磨の源次郎がかなわぬほどの腕になった。

古今東西の書物も読み漁り、優秀な文管になる素材は十分に備えるようになった。

と同時に、若さゆえ善・悪の両者のどちらかのみで判断し、世の中を乱す”温羅一族”の存在を知り、悪と判断した。

 

”爺様、私はあのような無頼者が許せませぬ

知識は十分に習得いたしました。武術を教えていただけませんか。

 

普段寡黙な源次郎が声を荒げた

 

”それだけは、ならぬぞ!。お前が考える事ではない。わしの言う通り幕府への仕官(今でいう”お受験”)だけを考えればよいのじゃ。

 

 

太郎は、そもそも源次郎が誰なのか、そして自分の父母すらもわからない。

 

当時の8歳は、今でいう思春期に近い。

 

 

その日から太郎は、源次郎に不信を抱き学業もおろそかになり始めた。

 

 

彼の目標は、書物ではなく”打倒 温羅”だったからだ。

 

無論、思春期の若さと浅い考えしかない太郎。

源次郎の”真の思惑、そこに至る苦悩”などわかっていない。

そして”今の自分があるのが、源次郎のおかげだ”と、全く思っていない。

 

自分は絶対に正しく、無理解な祖父に嫌気がさすという考えだけしかなく、口も利かなくなっていた。

 

源次郎とフミが懊悩する日々が始まる。

 

記憶の残らぬ赤子の時に善、悪は十分教えている。

いずれ時間が解決することは分かっていた。

 

しかし太平の世とは言え、源次郎78歳。残された時間がわずかである。

 

太郎のために決意をした源次郎は、3人の部下に文書を送り召集をかけることにしたのである。

そしてフミも、鍛え上げていた間者および自らの部下、3人呼び寄せることになる。

 

思春期の太郎はすさんでいく。

源次郎の真実を知り驚愕するまでは。

 

以下次号 水曜日掲載です。 

この作品はフィクションです。

コアラ人