温羅はすっかり油断していた。
すかさず眼光鋭く鍛え上げた肉体の桃太郎が、キジの真意をくみ取り温羅に、にじり寄った。
”いくらか欲しいのか?”
恐怖のあまり思わず温羅の口からこぼれた。
”いや、今のような洒落ごごろのわかる御仁が、何故民を苦しめられるのか、真意を問いに来ただけ。
そなたの選ぶ道は二つしかござらんぞ。
幕府との密約を私に話し、某の配下について備前を守る。
もう一つは、この世から消えるのみ。”
先ほどの道化師とは打って変わった桃太郎の迫力に押されひるむ温羅は、久しぶりに真のもののふを前に姿勢を正し、
”私、温羅巳之助と申す。
おねさまの雑用など受け持ち、大阪城の陥落前に西へ逃げてきた落ち武者なのです。
徳川方からは、助かりたくあれば、非道の限りを尽くせと命じられておりました。
豊臣の残党はひどい、大御所様からの江戸幕府のおかげで太平が保たれておるのだと民を畏怖させる役をおおせ使っておりました。
しかし、あなた様のような真の武士に出会い、悩み続けていた生き様でしたが、決めましてござる。
気配すら見事に消し、世情に合わせた奇襲をかける皆々様を拝見し、私は決めた!決めもうしたぁ!
不当に巻き上げたものは民に帰し、貴殿の配下となり木下藩として豊臣を残しとうなりました。”
巳之助の目の微細な動きも漏らさず、桃太郎も見据えた。
”おわかりいただけたようですな。
ただし、木下藩に私は関わらず豊臣方の安住の地にされるが良い。その方が江戸方も勘ぐるまい。
ただ、温羅を退治した桃太郎という伝説は残させていただきたい。
実際、われわれと貴殿たちは新しい備前の治安部隊として動くのじゃ。
いずれ江戸幕府の時代が終わる頃も見据え、さらに西国とのつながりを深めて、影の部隊として動こうではないか”
それ以降、温羅による傍若無人なふるまいは、なりを潜めた。
大政奉還が行われるのは、まだまだ先ではあるが、江戸の初期に薩摩や長州にくさびは打たれていたのであった。
源次郎、フミも、太郎を育て上げた誇りと心からの安堵を得たのであった。
そして、ここから”鬼退治の桃太郎伝説”が始まったのである。
めでたし、めでたし。
この物語はこれで終了です。結局、桃の屋源次郎の話にも思えますが、まぁ良しとしましょう。
バカ物語のようですが、今後の子供さんに対する深いメッセージや配慮もあります。
それはサイドストーリーで。
コアラ人の独り言