最新桃太郎の真実 桃の屋太郎 第七話 出会い

桃の屋太郎

太郎出立の報を受け、吉備太郎は接見を急いでいた。

 

若者としては当然の事ではあるが、温羅の苦悩を知らぬまま、完膚なきままに成敗をと考える太郎が襲撃準備を着々と進めていたからだ。

キジが、毎夜温羅の屋敷で繰り広げられる宴で給仕を務める形で潜入。

1000坪はあろうかという広大な敷地に作り上げらた温羅の屋敷。

彼も戦国の世は十分に知っている。

屋敷自体は平屋だが、地下から抜け出せるなど多数の仕掛けもあった。

隠し扉も各所に設け、単純に乗り込んでも簡単には追いつめることができない。

 

温羅一族、正確には478名の配下がおり、屋敷の警護は万全にしている。

敷地の中央に温羅の部屋があるが、宴を催す広間に抜けることができるようにもなっている。

 

当然襲撃は、完全に日が落ちてからということになるが、配下が声でもたてようなら温羅は瞬時に屋敷の外に出てしまう。

夜になり、風林火山のごとく疾風の戦いが必要。

 

暗闇稽古が十分に役立つ。

そして猿武、犬山、太郎にしてみれば一人120名程度の人数を相手に心臓振盪を起こさせて、完全に失神させる力はある。

30分ほどで流れるような攻撃ができる。

 

だがキジは、そこまでの武の力量がない。また邸内の諜報も必要。

 

残りの100名をどうするか。

自然に屋敷に入る方法はないか。

また配下を完全に倒したあとに、屋敷に入るきっかけも練り上げられていない。

 

手だてを任されていたキジは、行き詰まっていた。

 

そこに吉備太郎からの文が届いたのだ。

そして、太郎に会うことを取り計らって欲しい旨と温羅の真実が書かれていた。

このことを太郎に報告すべく、吉備太郎を調べ上げ太郎もとへ連絡に走った。

 

”太郎様、かような文が届きました。いかがいたしましょう?”と相談

 

太郎はしばらくの沈黙ののち、

 

”爺様より、心底の見抜き方は教わっておる。

かの者がまことの事を申しておるかは、すぐにわかること。

猿武、犬山は気配を消し周囲に援護で待機を頼もう。

キジ、そなたは吉備太郎殿をお連れいたせ。”

そして、太郎と吉備太郎は出会う。

 

”お初にお目にかかります。手前、吉備太郎と申す。

温羅とは幼馴染ゆえ、性格も知り尽くしておりまする。

文にしたためました通り、幕府の申し出で温羅が蛮行に及んでおること、心を痛めておりました。

 

しかしでござる、温羅は人心掌握もたけており、十分な理性も知性も持ち合わせております。

民のために労を惜しまず動くことは間違いございません。

 

もちろん、成敗は必要とはわかっておりまする。

私も100名ほどの手勢を静かにさせる木田流伝承者。

必ずお力になりまする。

もし、私に偽りをお感じになられたならば、この場で切り捨てられても文句はございません。

 

先ほどより、2名の武芸者の気配も感じまする。覚悟あってのお目通しでございます。

私を、お仲間に加えていただけませぬか。”

 

巨躯、強面に似合わず瞳は透き通っており、瞬き一つせず太郎を見据える吉備太郎。

 

”あい、分かった。貴殿に偽りはなしと理解いたした。

ただし、幼馴染の貴殿にしかできぬ、役を担っていただくが、良いか?”

 

”はっ!何なりと。”

 

渡りに船とはこのこと。襲撃のきっかけに、困っていたところであった。

 

まず吉備太郎から、温羅に久しぶりに酒をかわそうではないかと、約束を取り付ける。

襲撃の日、屋敷内の手勢478名を太郎、猿武、犬山、吉備太郎で全員静かに、気を失わせる。30分ほどで。

 

その後は太郎たちが変装し、吉備太郎が率いる配下として宴のためと屋敷内に入ることになった。

もちろん屋敷内の不穏な動きは、先に入っているキジが完全にとりはらう。

 

”これで、屋敷に自然な形で入れる。”

 

成敗目的ではあるが、吉備太郎を介して本来の温羅に戻り、同じ志で動いていることを理解させる。

その後仲間として、民に尽くすように改心させることで”哀しみ”ではなく、”喜び”の結末を迎える。

 

源次郎との約束を違えずにすむと胸をなでおろした。

 

”吉備太郎殿、気配を消すようにとの命で控えておった武芸者すらも感じ取る貴殿に感服いたした。

自然に約束を取り付ける策、温羅が油断をするような策は、当然ござろうな?”

 

それまでの真顔から一転して、満面の笑みで吉備太郎は言った。

 

”もちろんでござる。おん任せあれ!

 

ただ、二つお願いがござる。

 

一つは、演芸のため皆様に覚えて頂きたい出し物がございます。

もちろん温羅も喜ぶことは間違いござらん。

真剣な交渉もしやすくなります故、無理を承知でお願いつかまつる。

 

二つめは、私緊張すると腹が減り申す。

吉備粉の団子が特に好物ゆえ、腹ごしらえをしてかまわぬか?”

 

皆が、少しの間をおいて大笑いとなった。

 

”よい、よい。演芸も団子もそなたの自由じゃ。練習をさせていただこう。

団子を食べたあとに、手本を見せてくれぬか。キジ、すまぬが団子を用意してくれ。”

 

団子を食べたあと、英語も堪能な吉備太郎の演芸を目の当たりにして、

 

”おお!これは面白い。”

 

太郎たちも、本格的に練習を始めた。

 

また、団子好きということから、吉備太郎は”吉備団子”と名乗るようになった。

桃の屋太郎一向に従う、吉備団子がここに誕生

”団子好きのうっかりもの”が、のちに光圀に従う間者の原型ともなる。

 

決行日、演劇の練習、交渉。

全てのおぜん立てが整った。源次郎の言葉を肝に銘じ、

新しいいくさを、みせよ!

桃の屋太郎、猿武、犬山、キジそして吉備太郎改め吉備団子一行は、温羅の屋敷へ向かった。

 

夕刻を過ぎ、春先とはいえ真っ暗である。

 

以下次号  毎週水曜日連載です。

この作品はフィクションです。

 

コアラ人