”あの時は(ルームサービス①)”

エッセイ

不定期連続ざんげエッセイ 

もう、30年近く前になる。大学1年の夏、僕は日々バイトに明け暮れていた。

岡山市内で現在は廃業している、ビジネスホテルにあるレストランでウェイターをしていた。

時効、と考えて重大なエピソードを告白したい。

今は到底無理だが、19歳の食欲と体力はすさまじく、朝、昼とご飯を超大盛りでしっかりとっていても、午前中のトレーニング、その後花屋さんのバイトでエネルギーは完全に枯渇している。

そして16時にレストランに入る頃には完全にガス欠で何を見ても食べ物に見えるほどだった。21時の休憩までは果てしなく長いが、お客様においしそうな料理をご提供させていただくのが大切なお仕事である。

満面の笑顔と裏腹においしそうな料理を運んで行く心の中ではため息が止まらない。さらなる試練がくるのだが、何か。19時からのルームサービスである。

ポテトの盛り合わせやドイツソーセージ、ビール、カレーなどなど宝石のように光り輝く食事を従業員用エレベータの中、一人で運んで行く。

くどいようだが、休憩までは時間がまだまだある上に、倒れそうなほど空腹なのだ。

左手に乗せたお皿の上には10数本の燦然とかがやくソーセージ、油のにおいが誘惑するポテト。しかし、お客様にご提供する大切なもの。

19歳にして、人生の岐路に立たされるほどの決断を迫られる。ああ、これが僕のものならば・・。いや、だめだ。しかしいかんともしがたい空腹。

どうする?どうもできないだろう。

自問自答をしながら、エレベータが動く。決断をするならこの時間しかない。

次第に油のにおいに思考が鈍ってきている。もうすぐエレベータが目的の階に着く。未熟な19歳は極限に苦悩している。

以下、次号。